はみ出しストーリー『総会後』

 ようやくテスト期間も終わり、ほっとしたのもつかの
間。答案の返却で悲しい涙を流した僕だったが、とりあ
えずは追試もなく安堵で胸を撫で下ろしていた。

 「おはよう岡本。掲示板に張り出されていた、試験成
績上位者を見たか?」

教室に到着すると、只野がやって来て尋ねてきた。
 「見てない」

 「やっぱり、見てなかっただろ?」
  只野は、ほら見ろと高橋に言った。
 「マジで? あんだけ人がいたら見るだろ?」
 高橋は僕に尋ねてくる。
 「確かに人は沢山いたけど、混んでいたから見なかっ
た。放課後になれば空くだろうしさ」

 「相変わらず、関心が薄いよな」
 高橋と只野は異口同音で言った。
 「岡本君、おはよー」
 登校してきた片桐さんが声を掛けてきた。今日も可愛
らしい微笑を向けてくれる。心のオアシスだ。

 「おはよう」
 そう返事した僕に、片桐さんが切り出してきた。
 「ねぇ岡本君、掲示板に張り出されてたテストの成績
上位者、見た? 都築さんと松田さん学年の同位のトッ
プだって、凄いねぇ」

 「えっ? あ……ああ」
 感心した様子の片桐さんの言葉に、生返事をした僕は
只野達を見た。二人はうんうんと頷いている。恐らくこ
のことが言いたかったらしいことを僕は悟る。

 ダブドラが同順位でしかも、学年トップとは。激しく
火花を散らした選挙の結果も同数票だし、張り合ってい
ながらテストの点数も同点となるとは仲がいいと言うべ
きだろう。

 当の本人達はそんなこと露にも感じていないだろうけ
ど。本日の一年生の間では、この順位の話で大いに盛り
上がった。

 総会が終わっても、僕は書記としての大きな仕事が残
っていた。月一のペースで発行することとなっている生
徒会便りの文章を書くのだ。総会の様子を取り纏めた文
章の最終チェックの日ということで、放課後に生徒会室
へ行かないといけなかった。

 「なんだって、俺まで参加かよ……」
 同行者の高橋が暗い表情をして言う。
 「仕方ないだろ。書記の僕が書いた便りの記事の最終
チェックを受けた後、広報担当の高橋が紙面上の構成を
考えて印刷に出すんだから」

 「そりゃ、そうなんだけどさ……俺の仕事量、多くな
いか?」

 「そうかな?」
 そう答えた後、高橋の仕事量が何気に多い事に気付
いた。今回の件で言えば、僕は総会での全やりとりを記録。
それを基に便りの文章を作成。
一方、高橋は総会の台本作
り、司会者、そして僕が書いた便りの記事のチェックに付
き合い、生徒会便りの紙面構成が任されているわけで……
確かに高橋が言うように比較してみると、請け負う仕事の
数もボリュームも僕なんかより多い。
生徒会室の入り口に
到着した高橋は、深い溜息をついて戸をノックした。

 「どうぞ」
 部屋から松田さんと都築さんの声が聞こえてきた。なんと
なく予想していた通り、二人は既に到着していた。

 「失礼します」
 扉を開けると、面接官のように座った二人が出迎える。
僕は記事のコピーを鞄から取り出して渡す。受け取ったダ
ブドラは目を通し始めた。

 昨日、高橋と文面について打ち合わせしていたので、不備
はないかと思う。ただ心配なのは二人にとって内容が受け
入れられるかどうかだ。

 とにかく、総会でのやりとりを並べただけの報告文なので、
ダメだしは基本的にないと見ていいかと思う。

 「あたしはこれでいいと思うけど、どうよ?」
松田さんの言葉に都築さんが返事する。
 「文章に問題ないと思うわ。後は写真を数枚配置して印刷
に回せば終了ね。で、高橋君。写真の用意は出来ているの
かしら?」

 都築さんの言葉に弾かれるように、高橋は既に鞄から取り
出して手にしていた十枚程度の写真を、手際よく机に並べ始
めた。

 「写真部から総会の現像が出来上がったと受け渡されたも
のです。今回の便りの文章量ですと、お二人が映っている
もので一枚。総会の全体が写っているものを一枚掲載出来
るぐらいでしょうか」

 高橋が姿勢を正して説明するのを聞いていない二人は、こ
ちらがいいだの、あっちがいいだのと盛り上がる。

 五分近く経過した後、「これ」と差し出したのは二人が物
凄く偉そうに構えている一枚だった。

 「では、この写真の配置ですが……」
 高橋は既に用意していたらしいレイアウトを机に置いて写
真の配置を提案する。

 「それでいいわね?」
 都築さんが松田さんに確認する。
 「ああ。バッチリだな」
 とても満足気な表情で松田さんが答える。
 「では、これで印刷に手配します」
 「よっしゃ。じゃぁ、今日はこれで解散!」
 そう言って鞄を手にさっさと生徒会室を後にした松田さん
に続き、都築さんが「お疲れ様。鍵はお願いね」と言葉を僕
らにかけて出て行く。それを受けて高橋は、「お疲れ様でし
た」と見送った。鍵をかけて一緒に職員室へと向かう途中、
僕は高橋に話しかけた。

 「一人ずつが写っているのはないんだな」
 「あったとしても渡さない。っていうか、渡せない」
 「どうして?」
 「察してくれ、岡本」
 「察するって……何を?」
 「便りの紙面の上か下か、左右のどちらに自分の写真を載
せるかで絶対にもめる」

 高橋の一言で合点がいった。つまり、二人一緒に映ってい
るものを掲載すれば、もめないという考えか。

 「ああ、なるほど……だけど、都合よく二人一緒の写真が
あったんだな」
 「写真部の奴らに絶対に一人ずつ映すな、二人一緒で撮っ
てくれと頼んでおいた」

 「そうなんだ。大変だな」
 あれこれ先回りして粗相のないように根回しするという気
苦労の耐えない高橋は、再び深い溜息をつくと、職員室へと
入って行く。

 ものの一分もかけずに出てきた高橋に、僕は労いの言葉を
かけた。

 「お疲れ様、高橋」
 高橋は何も言わず、重責から解放されたかのような顔を僕
に向けてきた。

             「はみ出しストーリー『総会後』」・了


※2009/11/15のコミィティア無料配布ペーパーのあとがきは省略しました。

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